るの、お父さん……。もう、そこが天辺《てつぺん》よ……。
州太の声  ちよつと待て……。そのへんで少し休まう。
二葉  だつて、もう一と息よ。噴火口が見えてるわ。
州太  (追ひついて)だから、さう急ぐことはないさ。日の出には、まだしばらく間がある。この辺なら、煙が来なくつてよからう。(腰をおろす)
二葉  あたしたち、随分早く着いたのね。さつきの人達、まだあんなところにゐるわ。
州太  喉、渇かないかい。(水筒の水を飲む)
二葉  早く噴火口のなかゞ見たいわ。一人で行つちやいけない?
州太  お待ち。今一緒に行くから……。
二葉  (これも腰をおろし)この山、何時破裂するか知れないわね、かうして、……。
州太  東京にゐたつて、何時地震で潰されるか知れない、それとおんなじさ。お前たちは、まだ命が惜しいだらうな。
二葉  命が惜しいなんて、そんなこと、まだちやんと考へたことないわ。だつて、死にさうになつたことなんかないんですもの、一度も……。
州太  年を取ると、自分の身に迫つた危険といふものが、はつきり見える。その代りに、また、さういふ自分の眼を疑ひたくなるものだ。わしはこれまで、病
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