ひるかも知れん。
とね  ほんとに、いゝんですか。若いもの同志ですから、どんなことで……。

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彼女はまた、跫音を忍んで、奥へ去る。
州太は、その後から、これも抜足差足で戸口に近づく。
[#ここで字下げ終わり]

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州太  (声を潜めて)おい、おとね、もう一度、様子を見て来い。なにか、変つたことがあつたら、さう云へ。

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さう云ひ終つて、彼は、戸口に佇んでゐる。
長い間――
やがて、また、とねの姿が現れる。
[#ここで字下げ終わり]

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とね  (低い声で)詳しい話は、よくわからないんですけどね、なんでも、二葉さんが、あの人に隠してたことがあるらしいんですよ。
州太  隠してたこと? なんだ、それや……。
とね  (制して)駄目ですよ、大きな声をしちや……。二葉さんの方の云ふことがよく聞えないんですよ。男の方ぢや、かう云ふんです。――「それぢや、あなたは、さういふ事実を認めるんだね」つて……。
州太  それで、二葉の返事は……。
とね  黙つてるらしいんで
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