をふる)
州太  (とねに)お前も一つやれ。おれが仲直りをさせてやる。一体、何を喧嘩したんだ。おれの留守に……。
とね  いやだ、喧嘩なんかしやしませんよ。ねえ、二葉さん、あたしは、そんなつもりぢやないんですよ。たゞ、この人が、あんまり沈んでるやうだから、なにかわけがあるんぢやないかと思つて、訊いてあげたゞけなんですよ。
州太  さうか、二葉。
二葉  さういふ時、あたし、いろんなこと訊かれるの厭やなんですもの……。
とね  だつて、あんた……。
州太  訊いてくれるなと云ふんなら、訊かずにおかうぢやないか。注げ。この奴さんも案外苦労性で、人のことつていふと躍起になるんだ。(二葉に)お前もまた、それくらゐのことで、泣かんでもいゝぢやないか。それとも、泣きたいほど悲しいことがあるのか。そんなことは、ありやせん。つまらんことを考へるひまに、わしの事業を見ろ、事業を……。七月この方、土地を見に来るものが、毎日平均三人……。これは素晴しい数字だ。その場で契約はできなくつてもいゝ。来年の夏までに、少くとも、このうちの二割は、申込んで来るとみて差支へない。そのほか、土地の条件だけ気に入れば、実際は
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