うと思ふの。あたしだつて、その方が、ずつと居心地がいゝわ。
とね さういふ話、こんなとこぢや、ゆつくり出来ませんよ。たゞね、舁《かつ》ぐやうで変だけど、あたし、これまで、二度も人の世話になつて、二度とも、いざ正式につていふことになると、不思議によくないことがあるんですからね。
二葉 よくないことつて……?
とね 最初は、その男が急病で亡くなるし、二度目は、相手にほかの女ができて、こつちがゐたゝまらずに、出ちまふつて風でね。
二葉 ……。
とね だから、このまゝでゐた方がいゝつていふ気もするんです。
二葉 ……。
とね 気をわるくなすつちやいけませんよ。あんたの御親切はよくわかつてるんだから……。
二葉 さうでせうかね。あたしは、さういふこと信じないけど……。でも、兎に角、さういふお気持伺つて、あたし、うれしくなつたわ。(間)お父さんは、優しい人でせう。
とね さあ……、(笑つてゐる)
二葉 一緒にゐて、幸福だとお思ひになる?
とね (とぼけて)幸福つて、どんなことをいふんでしたつけ……。
二葉 あら……。
とね わかつてますよ、言葉の意味はね。でも、どんなこと
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