んから、あらまし聞いたわ。
とね さう、そんならいゝけど……(葱を洗ひ終つて、起ち上る)ちよつと、そんな風に見えて、あたし?
二葉 見えないこともないわ。
とね どういふとこ、例へば……?
二葉 むづかしいなあ、そいつは……。何処か、粋《いき》つていふのか知ら……。
とね 粋はよかつたね。はゝゝゝゝゝ。
二葉 (あつけに取られて、相手の顔をみる)
とね 大きな声を出すもんだから、びつくりしてなさるわ。此処にゐると、みんな声が大きくなるんですよ。近いと思つても、そら、周りが広いでせう。ちつとやそつと怒鳴つたぐらゐぢや、聞えないんですよ。
二葉 あたし、少し、あんたにお訊ねしたいことがあるの。今、お忙しい?
とね お鍋を掛けつ放しにして来てあるんだけど……かまはないわ。どんなこと?
二葉 あなた、お父さんのお嫁さんになる気なくつて?
とね なにかと思つたら、そんなこと……。こつちばかりさういふ気でゐても、しようがないぢやないの。
二葉 あなたがさういふ気でゐて下されば、あたし、骨を折つてよ。どつちでもいゝやうなことだけど、やつぱりさうと決まれば、万事に気持が違ふだら
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