さい。手に入つたもんよ。
とね いやだ。今夜は、そのつもりでゐたのに……。
二葉 こんなところで、雪でも降つたら買物はどうなさるんですの。
とね 軽便は止つちまひますしね。仕方がないから、あるもんで我慢するんですよ。今年の冬なんか、お米がきれさうで、さんざ気を揉みましたよ。
二葉 お米がきれたら、どうするんでせう。
とね 荷馬車が通へばですけれど、さもなけりや、餓ゑ死ですわ。でも、それまでには、誰か、なんとかしてくれるでせう。
二葉 安心してらつしやるのね。
とね 男つて、さういふ時には、わりに役に立つもんですよ。
二葉 ほんとね。あなたつて、面白い方……。あたし、好きよ。
とね (更めて、相手の顔を見る)
二葉 失礼だつたら、御免なさいね。
とね 失礼なもんですか。さう云つて貰へば、これでも嬉しいんですからね。あたしみたいな女にでも、若い時があつて、好きなものは好き、嫌ひなものは嫌ひと、はつきり云つちまへた時代があつたんですもの。今は、何を云つても、人がそのまゝに取つてはくれませんけど、あんたゞけには、ほんとのことがわかつて貰へさうな気がしますわ。
二葉 大変
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