よ。
とね  ほんとですね。
州太  うるさいな。
とね  余計な苦労をして、損しちまつた。
州太  何がだい。
とね  あんたが、二葉さんに気兼ねだらうと思つてよ。
州太  気兼でなくもないがね。
とね  それ御覧なさい。
州太  だからと云つて、今更、お前を女中扱ひにも出来まいぢやないか。
とね  うれしいわ。
州太  その代り、しつかり頼むよ。つまらんところで、おれに恥をかゝせないでくれ。
とね  どういふところ……?
州太  考へたらわかるだらう。
とね  わからない。
州太  娘の眼に、おれが道楽者に見えても困るからな。
とね  はつきり云つて頂戴よ。
州太  もう、その話はよせ。おれは今、非常に六ヶ敷い問題を考へてるんだ。子供を裁くのは、なぜ親でなければならんかといふ問題だ。おれは、今、親でありながら、子供になつてみてゐる。さうすると、娘の二葉が、実は、娘のやうな気がしないんだ。丸で母親のやうな気がする。この気持は、ちよつとお前にはわかるまいが、それやしみじみとした、嬉しいとも悲しいともつかん気持だ。もうぢき、あいつが此処へ帰つて来て、われわれ二人を不審らしく見くらべるだら
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