まし)あの音がさうでせう。少し遅れましたね。
時田 あんた、忙しけれや、どうぞわしにかまはずに……。
州太 それぢや、ちよつと、失礼します。(部屋にはひり、卓子に向ふ)
時田 (しばらくぢつとしてゐるが)わしも途中まで迎ひに行つてこう。(さう云ひながら自転車を引つ張つて去る)
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やがて、とねがテラスに現れる。
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とね (窓の上の盆を片づけながら)局長さんは、もう帰つたんですか。
州太 ……。
とね 遅いやうですね。
州太 ……。
とね もう、あたしに、返事もして下さらないんですか。
州太 お前のさういふ気持が、おれには、やり切れないんだ。なにもかもわかつてる。黙つてゝくれ。
とね あんたは、無理な人ね。かういふとき、あたしは、どうすればいゝのか教へておくんなさいよ。昨夜《ゆふべ》からそれを訊《き》いてるんぢやありませんか。――お前がいゝと思ふやうにしろ、こんなことぢやわかりませんよ、あたしには……。二葉さんの前で、あたしは、一体、なんなんです。おつ母さんでもないでせう。そ
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