意の不調和、不均衡から生れます。従つて、如何に「健康な道徳観」を口にしても、それが知識である限り、それだけでは精神の健康を保証することはできません。例へば、その理論が猥りに排他的なものであつたり、押しつけがましかつたり、衒ひがあつたりするやうでは、その人物の精神活動そのものは、どこか偏したところがあるか、欠けたところがあるかでありまして、さういふ人物は、或は憐憫の情に於て薄く、或は危急の場に於て、不覚を暴露するといふやうな精神的弱点をもつてゐさうに思へます。

[#7字下げ]四[#「四」は中見出し]

 日本人は、その日常の行動からみても、また近頃、例の血液型の統計の示すところによつても、欧米人等に比して、著しく「感情的」であるとされてゐます。
 感情的であるといふことは、二様の意味にとれますが、感情が豊かで鋭く、その点に於て絶対的に優れてゐるといふ意味と、理性乃至意志に比して感情が強く、一種の不均衡状態にあるといふ意味とであります。
 この二つの意味は、それぞれ日本人に当てはまると思ひます。前者は大いに自信をもつてこの長所を益々発揮すべきでありますが、後者はよほどの注意を払つて、成し
前へ 次へ
全62ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング