ありますが、それがために、ほかに隙ができ、その隙に乗ぜられるやうなことがあつては、これこそなんにもなりません。
 例へば身体の鍛錬が必要だとなると、なんでもかんでも鍛錬で、ほかのことはどうでもいゝといふ風になり、甚だしきは、健康を害するやうな始末では誠に困つたものであります。
 競技のやうなものでも、団体の対抗試合とでもなると、もう「勝負」といふ一点に「考へ」が集中してしまひ、勝つた方は「どんなもんだ」といふ顔をし、負けた方は口惜しがつて泣くなどといふ現象は、抑も競技の精神を没却したものであります。
 この傾向はまた、人物の観察、評価のうへにも度々現れます。「一事が万事」とは昔から云はれてゐる言葉でありますが、これは諺であつて、それが当てはまる限界といふものがあります。ところが、これを人の一言一動に移し、その全貌を批判するのは甚だ軽率で、若し、敢てそれをするならば、自ら悔いないだけの信念をもつてすべきです。買ひかぶり、見損ひ、いづれもその罪は我にあることを知れば、徒らな警戒よりも、人を視る正しい眼を養ふ訓練こそ、青年の最も心掛くべきところです。

 すべて精神の不健康は、なによりも知情
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