には、科学者も芸術家も、みな旧套を脱して、国家意識に眼ざめ、それぞれ専門の知能を傾倒しつゝ、直接間接に国力増進の運動に参加するやうになつて来ました。
医師も、今までは、特別の勤務についてゐるものは別として、大体開業医といふものは、自分のところに来る患者の診療に当るだけが仕事で、早く云へば、病気になつたものだけを相手にしてゐたのですが、これからは、国の方針として、すべての医療関係者を一丸とし、国民保健、即ち、病気の予防に主力を傾けることになる筈です。
演劇や映画の企業も、これまでの営利主義を一擲し、国家の統制の下に、企画製作を通じて、戦争完遂を目指した直接の啓蒙宣伝に一層協力することはもちろん、大東亜文化の樹立に先行する、気品と情熱に富む作品の出現を促すでせう。
教育の問題は、既に一応形式上の決戦体制は整へられ、国民学校の確乎たる基礎の上に、青年学校の充実、中等学校以上の年限短縮など、相当画期的な処置は取られましたが、更に進んで、教育内容の刷新が着々進められようとしてゐます。
工科系統の学校増設、収容人員の倍加が著しい戦時色の現れであり、師範学校の昇格は、国民学校の重要性を一段と
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