英的だといふので、それがどんなものかもわからずに、自由主義と民主主義はいかんと騒いでみたりしても始まりません。
 そこで、私が青年諸君に云ひたいことは、「文化」や「思想」の問題は、ひとまづ、それぞれの指導者の指導に従ふこととし、先づ何よりも、敵国並びに敵国人を憎悪する気持を、更に一層、自分の心の中で燃えたゝせてほしいといふことです。
 その際、仮りにも誤つてはならないことは、いはゆる「坊主憎けりや袈裟まで憎い」といふ流儀で、物事を処理する単純主義に陥ることです。極端な例は、英語で書かれた書物を地上に投げつけて、快哉を呼ぶといふやうな子供じみたことです。
 しかしまた、米英にも学ぶべきところがあるといふやうなことを公然口にし、また、腹の底で繰り返し云つてみるといふやうな煮えきらぬ態度は、断然一擲すべきです。そんなことは、今問題ではないといふことに気づかなければなりません。良心とはそんなものではなく、冷静とはかくの如きことを指すのではありません。若し必要あつて米英の書物を読むなら、むしろ、今こそ敵愾心を以て、その書物の内容を戦利品の如く利用すべきです。戦ふものの当然の心理は、国民の間に共通
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