娯楽的欲求は元来健全なものだと私は信じてゐる。これを不健全なものにするのは、民衆を食ひものにする手合の陰謀と術策である。営利的娯楽業者と独善的民衆指導者の猛省を促したい。」
今から考へると言葉が激越に失してゐるやうですが、この事実は今も殆ど改まつてゐません。多少、政府をはじめ、各方面の努力はみられますが、まだまだ効果が挙つたとは云へないくらゐです。
「娯楽」の一番不健全なものは、「生活」と離れて、「生活」から人々を引き離すためにあるやうな種類のものであります。
「生活」の単調を忘れるとか、「生活」の煩はしさを逃れるとかいふ口実が、「娯楽」のために設けられてゐるのは、少しをかしいので、「娯楽」は立派に、「生活」の一部であり、正確に云へば、むしろ、「娯楽」は「勤労」の疲れを癒し、心気を一転させ、明日の「生活」の力を培養する、刺戟と鎮静を兼ねた頓服薬であります。
それゆゑに、「娯楽」は例へば頭の痛むやうな副作用を起してはならず、また、できれば、いくぶん栄養も含んでゐるやうな代物であるに越したことはないのです。
しかし、飽くまでも、「娯楽」は、「娯楽」以外の要素のために、「娯楽」たる
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