美」を求める域から脱して、「快楽」を追ふ領分にはひるからであります。「生活」そのものに理想なく、日常の「生活」を俗事の如く考へ、「仕事」は衣食の資を得るためと見做す、かの似而非通人の、もつて誇りとする「趣味」を、私は極度に排斥します。
青年にあつて、特に、「生活」を軽視し、却つて怪しげな「趣味」などをひけらかすのは、その動機や理由はどうあらうと、甚だ「悪趣味」だと思ひます。
「趣味」は繰り返していふやうに、「生活」から離れて、或は、「生活」の一隅に、ぽつりとあつてはならぬものです。「趣味」によつて養はれた「美を味ふ心」は、必ず、「生活」の全面に浸み渡らなければなりません。
文学のわかる青年が、家庭に於て、「親心」を解せぬといふわけはなく、音楽を好む青年が、扉の開けたてを乱暴にするのは大きな矛盾だといふことに気がついてほしいのです。
「美」を愛し、味ふ心は、日本人として当然深く養はなければなりません。これが、戦時の生活に必要な「うるほひ」を与へるでありませうが、この「美」といふものは、決して、それだけを愛し、味はへば足りるといふものではありません。事実、「美」を尊び、これを至上なもの
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