もの」を味ふといふことは、なんと云つても「芸術」を媒介とするに如くはありません。
「芸術」は芸術としての独自の意義と使命をもつてゐます。「芸術」に親しむといふことは、単に、「生活のうるほひ」に資するためではありません。「芸術」の創作はもちろん、これをほんたうに鑑賞するためには、非常な修練を必要とするのですから、すべての人にこれを求めることは無理だと思ひます。しかし、どんな芸術でも、それが実際に傑れたものであれば、何らかの意味で人の魂を打つのであります。芸術の浄化作用によつて、人は精神的に高められ、そこに意外な中毒作用さへ起さなければ、生活もおのづから美化されて来る筈であります。
「芸術」の中毒作用とは、芸術と生活とが離れ離れになり、芸術に親しめば親しむほど、生活が乱れ、荒み、空虚になることを指します。さうならぬためには、日本人としてのしつかりした「生活観」と、健康な芸術を選んでこれに親しむ態度とが必要であります。
「芸術」に限らず、とかく、「趣味」といふものは、前章でも述べたやうに、「道楽」と紙一重でありまして、凝り方によつては、どんな趣味でも、不健全な結果に陥ります。それはもう、「
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