絶えず目覚ましておくことは、人間としての「生き甲斐」の一つであり、生活に「うるほひ」を与へる肝腎な要素であります。
由来、日本人は、この点にかけては、世界のどの民族に比べてもひけはとらない筈でありました。ところが、近来、さういふ特長がだんだん失はれて来たのではないかと思はれる節があります。
「美しい」といふことが、往々「贅沢な」といふことと混同されるのは、「ほんたうに美しいもの」と、「美しく見せかけたもの」との区別を弁へないところから来るのでありまして、「ほんたうに美しい」ものは決して「贅沢な」ものではありません。「美しい」といふことの本来の意味は、「飾り」ですらなく、物自身の清く磨かれた自然のすがたにあるのであります。
人間の心や行ひの美しさ、その容貌姿態の美しさはもちろん、自然の美にしても、また、芸術の美しさ、国土や歴史の美しさ、生活の美しさ、いづれも、それは、見せかけや装飾ではありません。
ほんたうに美しいものを美しいと感じる力があつて、どういふもののなかにも、美しいところがあることを見出し、それを深く味ひ、自分もまた、生活の隅々で、「ほんたうに美しいもの」を生み出す工夫と
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