親に突つかゝり、弟妹に邪慳な素振りをみせ、愉しくても愉しい顔をしないのであります。
「作法」とは決して、固くるしい行儀や丁寧な言葉使ひだけを指すのではありません。時に応じ処に臨んで、最も適切な、最も円滑な自己表現をなし得る技術なのであります。
 対人的には、それは「礼儀」の様々な形式ともなります。「愛情」の表示にも亦この「作法」に類する形式があることを忘れてはなりません。
 われわれの「生活」は、この「愛情」を感じ合ふといふことがなかつたならばそれは如何に、味気ない、かさかさしたものでありませう。

[#7字下げ]六[#「六」は中見出し]

「生活のうるほひ」は、次に、「趣味」からも生れます。
「趣味」とは、こゝでは最も広い意味に使ひますが、言ひ換へれば、「ものの美しさを味ふこと」であります。昔は「風流」とも「風雅」とも云ひました。この「風流」「風雅」は、いくぶん、閑人の、世間離れのした「遊び」に近いやうなところもありますから、今の時代にはそのまゝ通用しませんけれども、日常の生活のなかに、生活を通じて、人間、自然、物事のそれぞれに、「美しいところ」を発見し、これを味ひ、これに親しむ心を
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