の身についた技術と云へるかも知れません。技術といふ言葉が気に入らなければ、「たしなみ」といふ言葉を、こゝでも使つていゝと、私は思ひます。
 家庭生活の「うるほひ」は、主として、家族間の「愛情」の自然な発露に求めることができますけれども、私が特に青年諸君の注意を喚起したいことは、職場や学校などの集団生活、わけても、勤労の時間に、同僚や先輩長上に対して、不必要に「無愛想」な表情を示さないこと、言ひ換へれば、「戦友愛」の自然なすがたが、せめて「眼附」や言葉の調子にだけなりと示されてほしいといふことであります。
 近頃、「商業道徳」といはれるものの一つに、客あしらひの問題が数へられてゐます。「売つてやる」といふ調子の横柄さ、突慳貪な客扱ひは、流石に誰の眼にも余るとみえ、商人の自戒を求めたものと思はれますが、これなども、同胞に対する愛情がないとは云へないのでありまして、まさしく、他の感情のために、それが押しのけられ、客の方に通じなくなつてゐるのです。

 そこで、この「愛情」の表示を最も自然ならしめ、適当ならしめるためにも、古来、人間には「礼儀」といふものが考へられてゐるのであります。
「礼儀」
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