配の男子などが、家族その他に対して優しい顔を見せまいとするのは、「愛情を小出しにしてはならぬ」と自ら戒めてゐるわけで、その心持はよくわかるのですが、どうかすると、それを口実に、自分以外への無関心を自ら省みないこともあり、また、威厳といふことを履き違へてゐる場合もあるのであります。
 たしかに、「愛情」の問題は微妙を極めてゐます。浅薄な愛情の氾濫は、もちろん人間の生活をふやけさせます。しかし、かたくなな愛情の拒否も亦、生活を寒々とした、うるほひのないものにします。
「愛情」の素直な、或は適度の表示といふことは、人間の本性に基く欲求であり、また、訓練による「嗜み」でもあるのですが、これは、口で云ふほど、た易いことではありません。多くの場合、その表示は、不自然であつたり、程度を超えたり、不十分であつたりするものなのであります。
 さういふわけで、「愛情」の表示には、それ相当の技術がいるとまで考へられてゐます。悪い意味の技巧は、「愛情」を不純なものとし、受け容れる側の反撥を買ふことはもちろんでありますが、示すべき愛情を、それだけのものとして、十分に、自然に相手に感じさせる方法は、なるほど、一種
前へ 次へ
全62ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング