的といふものをはつきり互に認識し合ふことが大切であります。
 今日は、誰でも頭の中で、国家の目指すところ、国民の向ふところを、しつかりと考へてゐないものはない筈です。それが国民お互の間に、心と心とを通じて、しみじみと感じ合ふところまでいけば、国内の「戦友愛」は眼に見える形で盛り上つて来るわけであります。
 ところで、「愛情」といふものは、家族間の親子兄弟夫婦の愛から、隣人、友人のそれ、更に、職場や学校などに於ける同僚、上下の愛情に至るまで、すべて、「如何に示されるか」といふことによつて、「生活のうるほひ」に関係をもつのであります。
 愛情はあるのだが、それを示さないといふのでは、ないよりはましに違ひありませんが、どうもそれだけでは、日常生活の「うるほひ」にはならないのです。
「愛情」を深く内に包んで、平生は無愛想とも思はれる態度を示し、それが何かの機会にふと相手の心に通じるやうな言葉となり行動となつて、ひときは感動を増すといふことは、事実さうでもあり、また、甚だ日本的なこととされてゐるのですが、それも、あまり極端になつては、芝居じみてゐて、ほんたうに日本的とは云へないと思ひます。よく年
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