み、送るべきだと考へます。
これと同様に、農村が仮りにその無頓着さのために強い兵隊を生むとして、無頓着にもいろいろあるといふことを一応吟味してかゝる必要があると思ひます。
東京のある専門学校で、かういふ面白い経験が行はれました。その学校の生徒は、概ねいはゆる「良家」の子弟で、もちろん都会児が大多数を占めてゐます。学校の教育方針として、生徒の全部が、専門の学課としてではなく、協同生活の訓練と常識の涵養とを兼ねて、農耕作の実践をはじめたのです。一番生徒を悩ましたのは糞尿操作でありました。ところが、一年もたつと、誰一人顔をしかめるものもなくなつたのです。仕事に興味をもちだしたことと、糞尿が「汚い」ものだとは思へなくなつたのです。少くとも、それを扱ふ自分の態度がはつきりして来るにつれて、不快を感ずるよりも寧ろ、これを科学的に処理する快感の方が大きくなつて来たのです。手が汚れても、それは薬品によつて「汚れ」たのと何等違ひはなく、仕事が済めば、洗ふだけの話である。必要と思へば消毒もする、これまた細菌の取扱ひと同じであります。
こゝにわれわれが明らかに察知できることは、これらの青年が、「汚い」
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