この二つの意見には共通の思想が含まれてゐます。それは西洋風の歪められた文化意識の否定であります。即ち、「幸福な生活」を、物質に恵まれ、安楽を主とする、事勿れ主義の平穏な生活と解すれば、誠にこの意見には同感であります。また、汚いとか不衛生だとかいふ観念が、現在の都会人のやうに、たゞ神経質にそれを嫌ひ、或は見栄だけでそれを云ふといふ風な傾向は、甚だ軽蔑すべきであります。その意味で、農村人の逞しい神経と自然な生活態度とはたしかに羨むべきものがあるのでありまして、日本の兵隊の強さの一つはたしかにそこにあることも想像できるのです。
 そこで、問題を根本に引戻し、英語の「ハッピイ・ライフ」はともかく、日本語の「幸福な生活」といふものが、真に、日本人としての幸福、国民としての幸福を意味し、国運の発展と家族の繁栄と個性の伸展とを併せ望み得るやうな「めでたき生活」のことであつたならば、そこには歓喜を待つ忍耐、希望をはらむ努力、光明に満ちた献身の見事な生活図が描かれなければなりません。これをこそ、真の「幸福な生活」と云ひ得るのだといふことを前提として、私は、日本人も亦、戦時と雖も、堂々と「幸福な生活」を望
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