を想ひ出しました。
 一つは、某高級官吏の意見で、――これからの日本人は「ハッピイ・ライフ」などといふことを希つてはならぬ。「幸福な生活」は国運を賭して長期戦を戦ふ国民とは縁のないものである。「ハッピイ・ライフ」を求めるのはもともと英米流の人生観であつて、甚だ日本的でない――といふのであります。
 もう一つは、某将軍の意見で、――いつたい日本の兵隊が強いのは、いろいろの理由はあるけれども、一つには、壮丁が主に農村出身で、戦争に誂へ向きの特徴をもつてゐる。その特徴といふのは、従順と無頓着である。命令に絶対服従することと、神経が太いといふことと、これが戦場では非常に大事なことだ。殊に、都会人のやうに、汚いとか不衛生だとか、さういふ観念が薄いことが、殺風景な生活を平気で送れることになるのであつて、現在やかましく云はれてゐる農村の文化といふやうな問題も、文化を高めると云つて衛生知識を授けたり、物を綺麗に整へることを教へたりするのは、一方から云ふと、農村出身の壮丁を質的に低下させ、兵隊としての強味を失はせる結果になるのだから、その辺のことは大いに考へなければなるまい――と云ふのであります。

 
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