ありませう。
 兵役の義務、今日で云へば、戦場に赴くことは、青年男子にとつて、もはや絶対の要求であり、これを躊躇するものは一人もない筈です。
 国民徴用令に応ずることも、今や、必須の国家的要請でありまして、これに対する覚悟も既におほかたはできてゐます。
 そこで問題は、各職域、各地域に於ける、いはゆる翼賛運動に対する青年各自の関心と協力のしかたについてであります。これは、殆ど青年の自発的参加に俟たなければならぬ領域であります。
 新しい「理念」の啓発と、瞬間的な「感情」の誘導は、政府と各職域に於ける指導者の手で、先づ一と通りの目的は達成されるのですが、強靭な「意志」の発動とその持続とだけは、青年自ら進んで蹶起し、矜りをもつて自己を鞭うち、希望と信念によつて激しく自分を引き摺り廻さなければ、断じてそのことは不可能でありませう。
 苦痛を苦痛と感じる場合、常にそれがあまりに早いことを恥ぢなければなりません。それが、鍛錬の始めであります。
 苦痛を苦痛と感じなくなることは、決して鈍感になることではなく、訓練によつて苦痛の種類が違つて来るのです。

 こゝで私は測らずも、ある名士の意見なるもの
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