が社会的な大きな問題にぶつからなければならんと思ふから、それは絶望的で不可能だと考へるのであります。その土地の人は医者にも相談し、或る問題は当局にも進言し、また或る問題は民間の開業医達が協力し、更にまた文化部門の人達或は学校の教師とか、新聞関係の人々であるとか或は宗教家といふやうな人達の協力を得て、その地方の保健問題の解決に乗出すことが必要であるといふことを、はじめてそのお医者さんは気がつかれたのであります。
かういふ風に単にお医者さんに限りませんが、文芸愛好者の場合も同様、また宗教家、教育家においても、今日までそれぞれその職域において、所謂「職域奉公」といふことが、狭い意味において考へられてゐる嫌ひが、なくはないと思ふのであります。しかし職域奉公を完うするためには、その職域だけの力ではいけないといふことを、吾々は反省しなければならないと思ふのであります。その意味における職域の組織といふものを只今翼賛会では考へてゐるのであります。
即ち文化部面における職域の組織――只職域の一元的の組織といふ事を考へるのみならず、あらゆる文化部面――専門の職域を横に繋ぐ一つの機構を考へなければならない、そこに新しい職域態勢を整へるといふ事について、特に注意して参らなければならないのであります。
大政翼賛会が只今実行してをります「国民組織」の問題――これは大体「地域組織」と「職域組織」の両面に亘つてをりますが、文化部面においては職域の組織と地域における職域の組織といふものを考へて参らなければならないのであります。これが結局は文化機構の整備強化といふことになるのでありますが、職域の点から申しますと、全国同一の職域の一元的組織をつくると同時に、これは各地方において、府県を単位とする職域組織が作られなければならないのであります。これは府県支部がこの組織に当るのでありますが、これまた府県が職域組織を作る段階と致しまして、今日まで本部が考へてをります「文化団体の結成」といふことが考へられたのであります。
文化団体は文化運動の主体であると同時に文化職域の整備の推進力でなければなりません。今日までは特にこの職域の整備といふことを、文化団体の主要な目標としてはをりませんでした、しかしながらこれは職域の整備を、非常に急がなければならないといふ事情と、もう一つは文化運動といふものが、漸次国民生活の面と結びつくやうになつて参りまして、これは文化職域のものだけが文化運動を実践するのだといふ観念を、拡めて行かなければならない状態になつて来たと思ふのであります。
従つて今後の文化団体は文化運動といふ点においては、文化団体のみの力で、この運動を進めるといふ形でなく、文化団体は凡ゆる団体乃至組織と協力して、文化運動を進めて行くといふ方向に、飛躍しなければならないと思ひます。
そしてそのために、さういふ活動が最も有力になるためには、どうしても文化部面の職域の整備組織といふことに、重点を措かなければならないのであります。この職域の整備組織といふことは、翼賛会支部がこれに当るのでありますが、さういふ組織は決して翼賛会だけの力でできるものではないのであります。形だけができて魂が入らない組織にならないやうにするためには、一般文化職能人の自治的な力によつて、互に結合するといふ機運が昂められて来なければならんのであります。さういふ機運が昂められ、しかもこの組織のため、最も中心的な力となるのが将来の文化団体であります。
で、文化団体はかういふ風にして文化職能人の一つの一元的な組織でありますから、他の団体――他の翼賛団体――翼賛運動を行ふ団体――この団体との間には緊密な連絡がなければならない。
そして文化運動といふものは文化職能人がこれに対して専門的な智能を提供するものであつて、文化運動そのものの実践は文化職能人の団体と共に各種の団体――例へば翼賛壮年団、青少年団、婦人団体、産業団体、農業団体、産報等の団体と常に協力して、文化運動を進めて行かなければならんのでありまして、これら各種団体の運動といふものは、一面において文化運動の性格を有つてゐるものなのであります。これに対して文化職能人団体――即ち文化連盟はその文化的な専門的な智能を、提供して頂きたいのであります。
これは或る模範村の話でありますが、この模範村は経済更生を目標として、数年来全村の活動が続けられて来たのであります。しかしその経済更生の目的は一応達成して、今や模範村の名によつて喧伝せられてゐる村であります。その村を最近調査しました結果、その村の健康状態が著しく低下した、経済更生の成績を挙げるのに疲労して、その村の健康状態が悪くなつてゐるといふ事実を発見したのであります。これはこの模範村にかぎられてゐる現象かと申しますと
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