青年へ
岸田國士
日本は今、興亡の岐路に立つてゐる。この事実をわれわれはまづはつきり頭にいれておかなければならぬ。わが民族の矜りは「どうにかなる」といふやうな哲学の上に築かれてゐるのでは断じてないのである。
国民は明日の日本が何処へ行くべきかをひとしく心に想ひ描いてゐる。しかしながら、現実の政治はまだまだ矛盾と混乱に満ち、指導者は輝かしい未来の姿を少しも予言してゐないのである。
新体制といひ、国防国家の建設といひ、その言葉にはむろん宏遠な理想が含まれてゐるに違ひないけれども、国民各自の胸ををどらすやうな影像を浮びあがらせるのは、まさに今後のわれわれの仕事である。
私はひそかに考へるのであるが、この新しい政治の原動力となるのは、次代を背負ふ夢多き青年の声であり、その声は若きがゆゑに高く、純なるが故にこれを遮るものがない。
青年の求めるところは、権勢でも利慾でもない。真なるもの、善なるもの、美なるもの、たゞこれだけである。即ち、人生最高の表現である。
日本の政治は、久しく、この目標を見失つてゐた。民族の本能がやうやくこれに気づかうとしてゐる。新日本の出発は、青年の希望そのもの
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