のうちのどれかが欠けてゐたとしても、なほかつ、青年の資格を失ふものではありません。自ら恃むところは何処かになければならぬ。これをはつきりと自覚することが大切です。
 ところで、この青年としての矜りは、自分が単に青年であるといふことだけを矜りとするのでは不十分なのであります。その上に、青年として今、自分が何をなしつゝあるか、家のため、社会のため、ひいては国のために、どんな修業を積み、どれほどの役目をつとめ、これから先、如何に大きな使命を果さなければならぬか、といふところまで思ひいたらなければ、ほんたうの青年の矜りは生れて来ません。つまり、為すべきことを為しつゝある秘かな満足と責任の重大さの自覚です。
「前途洋々」といふ言葉は、実に、青年に向つて与へられた祝福の言葉であります。

[#7字下げ]三[#「三」は中見出し]

 日本の青年としての矜りは、以上のやうな青年の特質を土台として築かれるのでありますが、世の中は、この青年に大きな希望を寄せ、限りない期待をかけるあまり、青年に対して、いろいろ無理な註文をし、よけいな世話を焼き、うるさく見張りをするといふやうなところもなくはない。時にはまた
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