からざる表現の空虚があつて、それが根本で、全体から云ふに云はれぬ「卑俗さ」を匂はせるのであります。
こゝにどうして、責任者は気がつかないのかと、私は宣伝標語を見るたびに思ふのですが、恐らく、青年諸君の多くは、さういふ標語の募集に応じて当選したものを除いては、私と同感であらうと信じます。
さて、それなら、かういふ事実に対して、青年はどうすればいゝか?
くれぐれも断つておきますが、私は、今、青年の「嗜み」について語つてゐるのです。
最も「嗜み」のない一例は、かういふ標語をみて、反感を抑へきれず、「貯金などするものか」と、一瞬でも心の中で叫ぶ、その本末を弁へぬ態度であります。
「貯金」は国家のためにするのであつて、標語を作つたり、選んだりした人間のためにするのではありません。
それなら、そのポスターを引き裂いてしまふかといふと、これまた穏かでありません。今のところ、このポスターのために、一人でも二人でも、実際、貯金をするものがあつたら、もつけの幸ひだからです。
青年は、第一に、この種の標語から、「卑俗な」臭ひを嗅ぎつけて、困つたものだと思ふだけで、既に、「嗜み」をいくぶん身につけ
前へ
次へ
全67ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング