気取らない自己批判であります。
従つて、「貯金」といふ、戦時下に於ける当然の国民的責務を連想させるためには、頗る厳粛を欠いた、低い調子のものとなるばかりでなく、文章の勢ひといふものは微妙なもので、この標語をうつかり読むと、「花より団子」の意味が全く本来の面目を失つて、却つて逆な印象を与へ、花など愛でるのは迂闊者で、団子の一串さへあれば、そんな花などはどうでもよい、といふ風な口調に響いて来るのです。これまた、たとへ「菓子より貯金」といふ思ひつきが多少可憐であるにもせよ、全体の効果の上から、戦争遂行のために絶対必要な「貯金」の奨励としては、どうもがさつで、「美しい夢」がなさすぎ、たゞ、当り前に、「なるべく多く貯金を」と呼びかけられた方が、ずつとすつきり胸に来るのであります。つまり、多くの宣伝標語に見られるこの種の「いゝ気になつた」言葉の遊びは、おしなべて、語呂が月並で、着想が低く、はしたないまでに露骨で、押しつけがましいところがあります。穿つて云へば、賞金目当ての苦心がありありと文字の間に滲み出てゐます。事柄が事柄だけに、国家の財政を憂ふる気持など毛頭感じられないところに、もともと救ふべ
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