ともに、どういふ場合でも、すぐ「卑しい」といふことが判断されるのですが、「卑俗」と「卑猥」とは、しばしば、環境の作り出す雰囲気といふやうなものになつて、そのなかにゐると、ちよつと気がつかぬことさへあります。
殊に「卑俗さ」に至つては、前章で述べたとほり、世間一般に通用してゐる事柄のなかに、現在どうにもならぬほど充満してゐる風潮でありますから、よほどの見識と「志」とをもつてこれに対抗しなければ、遂にそれらの敵の虜となる懼れがあります。
もともと、この「卑俗さ」は、多くの場合、道徳的にみては、一見なんら非難すべき節がないやうな装ひをしてゐます。のみならず、どうかすると、甚だ「道徳的」に防備され、いはゆる「健全な思想」によつて骨組だけは整へられてゐるのですから、青年に対しては、公然、ある種の力をもつてのしかゝつて来ることもあるでせう。
こゝが「嗜み」として、青年の青年らしい用意を必要とするところです。
例へば、街を歩いてゐると、「花より団子、菓子より貯金」といふ標語が麗々しくポスターとして掲げられてゐる。
「なるほど」と、一応は心をとめて、この調子のいゝ対句を読み返してみるでせう。「
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