較は、こゝでは必ずしも必要ではありますまい。たゞ、男の「男らしさ」は女を「女らしく」し、女の「女らしさ」は男を「男らしく」させる根本の条件だといふことを、こゝでははつきり云つておくにとゞめます。

[#7字下げ]一六[#「一六」は中見出し]

 そこで、男女青年、特に男子青年に「嗜み」として希望したいことは、前章「文化とは」の項に掲げた、「卑俗さ」をはじめとして、苟くも、「卑しい」と名のつく一切の言動に対して、常に敢然と戦ひを挑むことであります。これは他に向つて敵を求める前に、先づ自分のうちに厳重な掟を作らなければなりません。
「卑しい」と名のつくものに、その他、「卑怯」あり、「卑劣」あり、「卑屈」あり、「卑猥」あり、です。そのうちの幾分かについては前条でも触れたと思ひますが、更にこゝで繰り返しておきたいわけは、青年の高邁なすがたを、次代の国民として頭に浮べるだけで、私は胸がいつぱいになるほどうれしいのです。
 そして、かゝるすがたは、「卑しきもの」すべてを払拭することによつて、鮮やかに描き出されるからであります。
「卑怯」、「卑劣」、「卑屈」は、いづれも、わかり易い道徳の範囲で、自他
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