のです。
 青春との訣別は、人間の生長の歴史にとつて、二重の意味で重大であります。
 まづもつて、この人生の準備期とも云ふべき時代を、ほんたうに正しく過したか。これから一人前の人間として世の中のため、つまりは国家のために尽す、その能力を十分養ひ得たかどうかといふことが一つ。
 次に、生涯の最も楽しい思ひ出となるべきこの時代を、真に純潔に、伸び伸びと、光明にあふれ、歓喜にひたりつゝ、理想への憧れを抱いて邁進しつゞけたかどうかといふことが一つ。
 この二つのことがらを顧みて、心から満足に思ふものは、そんなに沢山はありますまい。
 しかしながら、そこで如何に悔んでも、もう取返しはつきません。
 青年の前には、多くのものが開かれてゐるのに、ひと度、壮年の時代が来ると、半ば閉されたもののみが眼の前にあります。しかも、それを押し開く「力」が既に弱つてゐるのであります。
 青年にのみ許された世界、青年のみを迎へ入れようとする領域が、いろいろの道によつて諸君に指し示されてゐるのです。
 これを、青年の特権と云ひます。特権といふ言葉は、こゝでは法律的の意味はない。たゞ、青年が社会から好もしい眼で見られて
前へ 次へ
全67ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング