別なく、如何なる場合にも、「ゆかしく、凜々しい」ものでなければならぬと信じます。
[#7字下げ]一二[#「一二」は中見出し]
「嗜み」の最も厳しい日本的性格は、如何なる場合にも、「不覚をとらぬ」といふことであります。「不覚をとる」といふ意味は、武士の戦場に於ける不名誉をはじめとし、何人たりとも、油断のため失態を演ずることであります。卑怯未練な振舞はもちろんのこと、用意周到を欠いて、いざといふ時あわてふためくが如きは、これみな「不覚」のいたすところで、それぞれの立場に応じ、分に従ひ、何時《いつ》どんなことが起つても、自若としてこれに立ち向ふことのできる準備ができてゐて、はじめて、「不覚をとらぬ」ことになるのであります。
これがため、心胆の錬磨、技能の熟達、細心の注意、特に名を重んじ、恥を知ることが必須の要件であります。
およそ日常生活のあらゆる「嗜み」は、最後はこの「不覚をとらぬ」といふ一点にその目標をおいてゐると云つてもよく、それといふのも、めいめいが「自ら恃むところ」あるを期して深く己を戒め、男は男たり、女は女たるの「矜り」を全うすることが、日本人の生き甲斐であるからでありま
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