に通じます。多くは「八面玲瓏」の油断のならなさ、「八方美人」の頼りなさが誰の眼にもそれと感じられ、もうそれが感じられるだけで、その人物は、それだけの人物だといふことがわかるのであります。
更にもうひとつ注意すべきことは、「嗜み」の消極的な一面、即ち、「羽目を外さぬ」といふ面だけをみて、それなら、結局、「尻尾を出さぬ」といふこと、「猫をかぶる」といふことではないかと考へるものがあるかも知れませんが、それは大きな間違ひです。なぜなら、最初にも云つたとほり、「嗜み」とは、「矜り」の現れでありまして、他人の前をつくろふ精神とはおよそ正反対なものであります。周囲との調和といふことも、周囲によりけりであることはもちろん、苟くも常におのれを屈して忍ぶべからざるを忍び、自己の保身のために妥協を旨とするやうな意味は絶対にないのです。
どの程度を忍び、どの程度を譲歩すべきかは、日常絶えずわれわれに迫つて来る問題ですが、この処理は、概ねその人の性格と「嗜み」とを示すものでありまして、いはゞ、社会生活を通じての興味ある自己訓練であります。
主張すべきことを主張し、貫徹すべきことを貫徹する断乎たる態度は、
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