はれるのではありますまいか。
最も私たちの眼を惹く実例は、お花の稽古に通つてゐる娘さんたちの、およそお花の精神とは縁遠い、つまり、自然の美しさを活かす、といふ極めて日本的な奥床しい芸道に身を入れながら、とんでもない不自然な、まつたく衣裳のなかに人間がかくれてしまつたやうなけばけばしい着物を着て、それで少しも自分の矛盾に気のつかない、あの「不嗜み」な粧ひであります。
もうひとつの例。工場などに働いてゐる娘さんたちの、工場への往復の衣裳、殊に、休みの日のいくぶんおしやれをした恰好は、なんと、この娘さんたちに似つかはしくない、どぎつい、軽薄な、そして物ほしげな卑しさの見すかされる着飾り方でありませう。
制服のできてゐるところは別ですが、さうでなければ、私は是非、適当な方法で、女子産業戦士としての、可憐なうちにも凜とした、爽やかで落ちつきのある外出着の選び方を研究してほしいと思ひます。
一般の男子についても、私は、かねがね、服装に対する観念が昔と大変に違つて来て、「嗜み」といふ見地から自分の身なりに気をつける男が少くなつたことを、これでよいのかと思つてゐたのですが、今は、殊更それを云ふ
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