意しなければならないことであります。つまり、角を矯めて牛を殺すといふ結果に陥りやすい。
日常生活は、如何に科学化されても、科学化されるだけでは、それは「生活」とは云へない。金品の消費を極度に節約するのはよろしいとして、節約によつて、「生活」に欠くべからざるものまでを失ふといふことになつては、これは一大事であります。
それには、「生活」といふものの内容を細かに吟味し、日本人としての「生活の拠りどころ」をはつきり把み、苟くも、日本人たるの「矜り」を傷つけ、国民としての質を低下させるやうな「生活」にまで自分たちを追ひ込まないやうに心掛けねばなりますまい。
こゝで、物質の欠乏をある程度まで精神が補ふといふ実例をあげて、「生活の秩序」とは、かくの如き心構へと方法とから生れるものだといふ結論を得たいと思ひます。
幾組かの家族がありました。それぞれ子供がゐて、近頃は洋服がなかなか間に合はない。一軒の家だけでは、どんなに工夫をしても、順繰りに下の者に譲るといふことさへできません。そこでこの幾組かの家族が、共同で、子供の被服類をお互に融通したり、交換したりする組合のやうなものを作つたのであります
前へ
次へ
全67ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング