れます。
頼みに思ふ息子を嫁に独占されたかたちの老人は、せめて孫でも思ひきり可愛がらうとする。孫は老人の愛撫に馴れて、人を人とも思はなくなる。両親の小言も馬耳東風で、しまひに大泣きに泣いて大人を強迫する。
母親は主人の方針に従つて子供をあまりひどく叱らない。叱つてはいけないと物の本にもよく書いてあるからでもある。云ふことを聴かぬ子を叱らないから、ますます横暴を極め、父親の背中さへ足で蹴飛ばす。「およしなさい、坊やちやん」などと母親は猫撫声で制する真似だけする。
父親は、いくぶん照れて、照れかくしに、わざと突慳貪な云ひ方で、母親の、台所へ瓦斯を止めに行くその背中へ浴せかける――「こら、新聞を早く持つてこい。何を愚図々々してるんだ」
まさか、こんな家庭はさうざらにはないと思ひます。しかし、この光景の一部は、今、殆どすべての家庭生活の隅にころがつてゐるのではありますまいか。
およそ、日本の家庭として、これくらゐ、ぶざまな、はしたない、つまり、「嗜み」の欠けた話はないのであります。
たいがいの人はそれに気がついてゐて、さてどうにもならないといふのが、佯りのない現状であらうと思ひます
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