つて、この家庭といふ、既に日本語になりきつた言葉を、ことさら忌み嫌ふ必要はありますまい。
前置きはこれくらゐにして、家族にしろ、家庭にしろ、ともかく、親子夫婦が一つ屋根の下に集つて生活を営む以上、そこに、他の集団生活にはみられない、特殊な秩序と雰囲気とが生れる筈であります。
祖先以来、幾代も続いて同じ家に住み、同じ習慣をつゞけ、親から子に一切のものが引き継がれるといふ昔の生活と違ひ、最近では、さういふ家庭はむしろ珍しくなつて、多くは、親の家を離れたものが、自分の働きで独立した生活を営み、そこへ家風の違つた他家から妻を娶つて、いはば若いもの同士が、それぞれの好みと経験とを持ち寄つて、いはゆる新家庭を作るといふのが普通であります。或る時機が来ると、郷里から老人を呼び寄せるといふ場合も少くありますまい。しかし、もうそれは、曲りなりにも、一家の流儀といふものが出来上り、または出来かけたところでありますから、老人は、それを見て見ぬふりをしてゐる。よほど目に余つたときは、遠慮がちに口は出すけれども、それはたいがい嫁の気に入らない。老人は唇を噛み、孫を抱いて無念無想に耽るといふ図がそこここに見ら
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