い、しかし、国家のためには由々しい障碍と困難とがあるわけです。従つて、この「夢」はこのまゝ独りよがりで、人々にこれを押しつけるやうな態度に出ず、諮るべき人に諮り、説得すべき人は説得して、村全体の総意にまで進め得るものならば、もはや、彼にとつては、これこそひとつの「志」なのであります。
彼の職業は微々たる一郵便配達です。しかし、彼の存在は、さうなれば、おそらく村の光明であり、郷土の力であらうといふことを、私は固く信ずるものです。
青年の「夢」が、いはゆる「栄達」であるといふことは、誠に悲しむべきことであります。なかには、地位と権力とを得なければ天下の大事を成し遂げ得ないではないかと云ふものもあります。「天下の大事」とは抑もなんでありませう。国民の一人々々が真の実力を蓄へ、その実力を完全に発揮することより外に、天下の大事などといふものは考へられません。真に有能な職工を得るためには、親子三代その業を継がさねばならぬとまで云はれてゐるのです。さういふ職工が日本に幾人ゐるでせう。そこにも亦、ひとつの「夢」がある筈です。青年が子孫の時代のことを考へてはならぬといふわけはありません。
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