る世界をひろげるかと思ふと、或る時は、模糊たる霧の中に焦点のない波紋を描いて心をときめかせるにすぎないこともあります。
「空想」とか、「夢想」とか云ふと、どうも私の云ひたいことと少し違ふやうな気がします。強ひて区別をつける必要もないやうですけれども、たゞ「夢」と云つた方が、なにか力強い、おほらかなものを感じさせます。

 青年の純真と血気とは、青年の「夢」を飽くまでも、美しく大胆なものにします。夢の翼はいかに拡がつても拡がりすぎるといふことはありません。
 青年の「夢」は、青年の描く「理想」の定かならぬ映像です。「理想」の骨組みだけは一通り組立てられるのですが、さて、それを血脈の通つた肉体として完全に構成する能力がないのです。それはつまり、「現実」を識る程度が極めて浅いのみならず、「現実」がどんな力をもつてゐるかといふことさへ、ほとんどわからないと云つていゝからで、そこにまた、青年の夢らしい夢があるのであります。

「夢」はまた単なる「野心」を指すこともありますが、もともと「野心」とはきはめて現実的な個人の欲望で、若しどこかに夢らしいところがあるとすれば、それは、その欲望を達するための
前へ 次へ
全40ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング