生活の黎明
岸田國士

 私は国民の一人として考へます。
 日支事変がはじまつて既に四年、しかもいはゆる聖戦の目的はまだその半ばをも達成してをりません。しかも、世界動乱の渦は欧洲大陸より太平洋に波及し、わが南北には文字通り、新たな国境――国を挙げて死守しなければならない明確な一線が地図の上に引かれたのであります。
 何処で何時、何が始まるかを、われわれは固唾を呑んで見戍つてゐるわけでありますが、実はそれらのこと一切は責任をとるべきものがとるのでありまして、われわれ国民は、何が何処でいつ起つてもびくともしないだけの準備を整へること、それだけが大切なのであります。
 国民の一人一人のこの覚悟は、すなはち、国の力となつて、いろいろな形で表れて参ります。
 第一には、もちろん、政治、軍事、外交、経済、産業、といふやうな国家活動が、必要に応じ、めざましく伸びて行きます。
 第二には、国民全体の生活が、無駄も隙もなくなり、がつちりと落ちついて来ます。
 ご承知のやうに、これからの戦争は、武力の戦ひだけではなく、国家の総力の戦ひだと云はれてをりますが、この総力といふ言葉の説明の仕方が、今までいくぶん
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