を、こゝで披露いたします。この詩は尾崎喜八さんの作で、「此の糧《かて》」と題したものであります。

[#ここから2字下げ]
芋なり。
薩摩芋なり。
その形|紡錘《つむ》に似て
皮の色、紅《べに》なるを紅赤《べにあか》とし、
形《かたち》やや短かくして
紅の色ほのぼのたるを鹿児島とす。

霜柱くづるる庭のうめもどき、
根がたの土に青鵐《あおじ》来て、
二羽、三羽、何かついばむ郊外の冬、
その陽当りの縁近く、
大皿の上、ほかほかと、
甘やかに湯気を立てたる薩摩芋。
親子三人、軍国の今日の糧《かて》ぞと、
配りおこせし一貫匁の芋なり。

芋にして
紅赤を我は好む。
紅赤の蒸焼せるをほくと割れば、
さらさらときめこまかなる金むくの身の
いかに健《すこや》かにも頼むに足るの現実ぞや。
鹿児島の蒸《ふ》かせるは、
わが娘とりわけてこれを喜ぶ。
鹿児島の肉は粘稠
あまき乳練れるごとき味ひは
これぞ祖国の土の歌、
かの夏の日の勤労の詩なりかし。

紅赤の、はた鹿児島の、
其のいづれをも妻はとるなり。
妻は主婦にして又人の子の母なれば、
好みは言はじ、選《え》りもせじ。
ひたすらに、分つ者、与ふる者の満
前へ 次へ
全10ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング