きな力となるものだと私は信ずるのであります。これまた、殺風景な日常の生活にうるほひあらしめる要素であります。
さてそれなら、生活にうるほひを与へるにはどうすればいゝかといふことになりますが、今まで繰り返していひましたやうに、こゝに生活といふものがあつて、それに、外《ほか》からうるほひになるやうなものを与へていくといふやうな考へ方ではいけないと思ひます。生活にうるほひがなければならぬといふことは、生活する人その人自身の心に、すでにうるほひがなければならぬといふことを意味するのであります。
例へばこゝに、親子三人のつゝましい家庭があるとします。戦時下の不自由がちな生活は、この家庭も他の家庭と違ひありません。ところが、この家庭の生活には、ほかの家庭に見られないうるほひがあるとします。そのうるほひは、勿論三人の家族の各々が作り出すものでありますけれども、それを生活のうるほひとして感じることがまた大切なのでありまして、若しかういふ生活に興味をもたない他人が見たなら、それは全く平凡な、退屈な、殺風景でさへもある生活と見誤まるかも知れないのであります。さういふ生活をうたつた詩がありますから、それ
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