足もて、
おほらかに、ねんごろに、
手馴れしさまに食《た》うぶるなり。
芋はよきかな。
薩摩芋はよきかな。
これをくらふ時、
人おのづからにして気宇闊大、
時に愛嬌こぼるるがごとし。
大君の墾《はり》の広野に芋は作りて、
これをしも節米の、
混食の料《しろ》とするてふ忝《かたじけな》さよ。
つはものは命ささげて
海のかなたに戦ふ日を、
銃後にありて、身は安らかに、
此のすこやかの、味豊かなる畑つものに、
舌を鼓し、腹打つ事のありがたさよ、
うれしさよ。
芋なり。
配給の薩摩芋なり。
その形紡錘に似て
皮の色紅なるを紅赤とし、
形やや短くして
紅の色ほのぼのたるを鹿児島とす。
[#ここで字下げ終わり]
この詩にうたはれた生活を見ますと、私がこのお話のうるほひの要素となるものを、希望、感動、新鮮味とあげてきまして、更にそれを生み出す源として智慧、ものを味ふ心、即ち芸術的精神と愛情、特に日本的義理人情をもち出したのでありましたが、この詩を通じて私の申しましたことが、ほゞ当つてゐるかと思ふのであります。
なほ、もう一つ例をあげますが、最近、或る未知の婦人から私あてに手紙がまゐりまし
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