して、誰にでも必要なんだ。
妻 でも、お金があれば、変化のある生活が出来るぢやないの……楽しみだつて、ふえるし。
夫 お前の愚痴も減るし。
妻 さうだわ、お金が入つたら、真先にどつか海岸へ行きませうよ。あたし、ホテル生活がして見たいわ。
夫 お前は勝手にさうするさ。独りでさびしかつたら、適当な相手を連れて行くんだね。
妻 まあ、それで貴方《あなた》は貴方で、適当な相手を引張り込まうて言ふの。
夫 まあその辺は、まかせといてもらはう。
妻 いゝわね、だけど、お金が入るつてことは、何も彼も新らしくなるつて気がするわ。あなたさういふ気持なさらない?
夫 おれはまだ、なんにもいふ資格はない。まあよろしくやつてくれ。
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また詩人が降りて来る。原稿紙をもつてゐる。
[#ここで字下げ終わり]
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夫 (知らん顔をして)「もし、この女の鬢《びん》を吹く風しもにゐたら、白粉《おしろい》のぷんとしたかをり、髪の油のなまめかしさで、まだ年の若いのが判断されたゞらう」
詩人 (妻のそばに坐り)これです。短いもんです。
夫
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