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夫、挨拶もそこ/\に玄関に出る。妻の母が送つて出ようとするのを妻が裾をとらへて放さない。
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第三場
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その日の夜、夫と妻が座敷の隅で立話しをしてゐる。
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妻 母さんを信用しない訳ぢやないけど、預つてやるつていふその目的が、あたしには分らないの。
夫 預つてやるつていふんなら、預けておいたらいゝぢやないか。僕がそんなこと口出しは出来ないよ。
妻 だから、それはあたしが云ふからいゝのよ。たゞ、一緒に行つて頂戴つていふの。女一人でそんな大金を受取るの、なんだか心配だし、どうせあたしが貰つたもんなら、あなたと二人のもんですもの。
夫 お前の気持はよく判るよ。だが、お母さんとしちや、僕に使はしたくないんだらう。赤の他人に、甘い汁を吸はせるやうな気がしてるんだよ。
妻 そんな法つてないわ。夫婦なら、どこまでも夫婦ですもの。
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この時、階段を下りてくる足音がするので、二人は慌てゝ外の事をし出す。
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