クを指して、組んだ脚の爪先を動かしてゐてやつた。然し、僕は、内心、ひよつとすると、先祖に帰化人があるんではないかと思つた。
序だが、ある女から「お前は支那人か」といはれ、味気なくなつて、そのまま帰つて来た日本人がある。同じ女が、別の機会にそれとよく似た男をつかまへ、今度は「お前は日本人だらう」といつて見た。するとその男は、こぶしを固めて、女の下つ腹を突いたさうだ。
話がわき道にそれたが――
その、どこからともなく現はれて、僕のそばへ寄つて来た男に、
「君は支那人でせう」と訊かれ、平然と僕は答へた。
「さうだ」
「僕は貴国の聖人を知つてゐます」
「孔子《コンフシウス》だらう」
「さやう」と、この男は、眼をギヨロリと光らした。
「貴国の方は、それにみんな詩人ださうですね」
「さうでもない」
「僕は、貴国の留学生を二三人識つてゐます。名前は忘れたが、いづれも極めて愛すべき人達でした」
やや生硬なフランス語だが、なか/\達者だ。こつちが黙つてゐるので、
「僕は、ポオランド人です。学生です。貧乏な学生です。苦学をしてゐるのです。自分でパンを得なければならないんです」
「僕もさうだ」
「然
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