に抱いて海に投ぜん」とか云つてゐるのであらう。
黒人君は黒人君で、白い歯をむきだし、いはゆる「プチ・ネエグル」で、「あとこれだけ……」と指を三本見せ、さもなければ、今度は手真似で、「船をこがぬ」と云ひ張つてゐる。
本船は明日の朝の出帆である。急ぐことはない。これからこの日光と砂の国に上陸したところで、水瓶を腰にかかへた赤銅色の女を見るだけの話である。それよりもこの黒と黄との争ひが、これからどう発展するか見てゐたい。
この時である。傍に座を占めてゐた彼等のうちの一人は、はじめて僕に話しかけた。―― Quel sale type !(なんといふ汚ない奴でせう!)
僕は眼でそれに応へた。
たうとう増金をだすことになつて、船は岸に着いた。
僕はいつの間にか、彼等の一行中に加はつてゐた。
最初船の中で僕に話しかけたのは、パリで医学を修めたといふC君である。
次に僕に話しかけたのは、アメリカで政治経済をやつたといふK君である。
その次は、フランスの女を連れてゐるL君、これはパリで支那料理の店をだしてゐる人である。
それからもう一人は、画家のS君、嘗て日本の美術学校にもゐたといふ
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