変り種だ。
 親日派と、排日派とに分れてゐるわけでもあるまいが、最後まで口を利かない幾人かがゐるにはゐた。――それすら、いよいよ上海で、僕のために別宴を張るといふ晩、快く食卓についてくれた。
 医学士のC君は、一見茫漠として捉へどころのない、そのくせ議論がたまたま東洋精神といふやうな問題になると、顔面朱を注ぎ、口角泡をとばして相手を悩ますのである。
 政治経済のK君は、もう、大学教授兼新聞記者といふ肩書をもつてゐるだけに、沈痛な口調で、冷徹な批評を、あらゆる問題の上に加へた。殊に日本の外交をめちやめちやに罵倒した。日米戦争は当然起るべきこと、その場合、支那は勢ひ米国に加担すべきこと、さうなると、日本は支那の海軍を軽蔑して、一挙にヒリツピンを占領すべきこと、すると支那は、ヒリツピンと日本本国との連絡を遮断して、米国艦隊の東京湾攻撃を容易ならしむべきこと、等々、彼は流暢な英語でまくしたて、僕がそれを黙つて聴いてゐると、眼界千里の海上には、音もなく夜がくるのである。
          ★
 仏国郵船会社の巨船ポルトス号は、一乗客たる某国侯爵家の要求を容れて、神戸入港の時間をわざわざ三時間遅
前へ 次へ
全21ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング