込む)痛くはないでせう。
患者 痛いです。
女の声 (奥で)アルマン、ぢや、一寸行つてくるわよ。
医者 もう出かけるのか。それぢやね……。(患者に)一寸失敬……。(戸口に近寄り、戸から外へ首を突きだし)なんだ、その荷物は……。
女の声 帽子ができて来たんだけれど、飾の花が気にいらないから、取換へにゆくの。だつて、二た目とは見られないやうな赤いばらよ。
医者 赤いばらだつていいぢやないか。それぢや、今度はなんにするつもりだい。
女の声 なんか、もつと、あつさりした、似合ふものにするわ。
医者 (声を低くし)ぢや、帰りに、マルタンのところへ寄るだらう。
女の声 時間があつたらよ。
医者 どこか、まだ寄るところがあるのか。
患者 (苦しさうに)先生。
医者 いますぐ……。それで、どこへ寄るの。
女の声 いいとこ。
医者 (ぢれて)兎に角、マルタンのところへ行つたらね、今夜、勝負をするからつていつてくれ。
患者 (益々苦しさうに)先生、大丈夫ですか。なんだか、針が折れたやうです。
医者 (一寸振り返つて見て、それには答へず)遅くなると承知しないよ。おい、………(キツスの音)
患者 (泣きだしさ
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